探究と情報をつなぐ(3)〜SSH指定校としての「データ駆動型探究」に向けた実践〜

2024年8月29日 伊藤 大貴(大分県立大分舞鶴高等学校)
1. カリキュラムの開発
カリキュラムの開発にあたり、下記に示す4点について考慮した(表2)。
- 情報Ⅰにおける「情報通信ネットワークとデータの活用」及び、情報Ⅱにおける「情報とデータサイエンス」の内容に即したうえで、「データ駆動型探究活動」の学びを促進する教材の検討を行う(2年間の授業全体を通した構想)。具体的には、2年次に行われる探究活動で取り上げるテーマを確認・想定し、過去の先輩の探究を体験し、改善するような工夫を取り入れる。
②数学や探究活動など教科等横断的な学びを見据え、学んだ知識が転移することをねらいとして、身近なデータを取り扱うこととする(主にData Science演習、課題研究のための
統計学)。具体的には、人口のデータや、コンビニの売上データ、睡眠時間等の生活データを取り扱った授業を行う。
③ハードウェアや教室等の環境的要因に依存することがないよう、1人1台端末での活用が可能なブラウザベースでのWebアプリケーションの活用を伴う活動を取り入れる(主に、課題研究のための統計学、Global Data Science探究、Computer Science演習)。
④「情報Ⅱ」及び、高大接続の観点から、機械学習を生かすことのできる教材の検討を行う(主に、Code Science演習Ⅱ)。具体的には、睡眠時間や部活動の有無等の学校生活に関するデータから、学校満足度を予測する教材の開発を行う。
2.統計分析Webアプリケーション「easyStat」の開発
今回作成する教材の学習指導にあたり、環境的な要因に影響を受けない統計分析Webアプリケーションの開発を行った。本アプリケーションは、1年次のデータサイエンスの「Data Science演習」にて、統計的仮説検定の後に取り扱うこととした。実際の活用場面では、授業用学校生活アンケート(睡眠時間や部活動の有無等の多変量のデータセット)を使用し、分析を繰り返すことで、それまでの授業で学んだ統計的な知識・技能の定着を図った。2年次の「課題研究のための統計学」や「Global Data Science探究」においても使用することで、並行して行われる探究活動に活かせるよう工夫を行った。
アプリケーション開発における主な条件は以下の通りである。
①タブレットPC等で軽快に動作することができる
②データの加工に関する操作を最小限に抑える
③タッチ操作のみで操作することができる
④解釈の補助機能を実装する
表2 データ駆動型探究への接続を意識したカリキュラム(SSH特別科目)
学年 | 単元 | 内容 |
1年 データサイエンス | ICT/Excel 演習 | 情報社会やICTの活用,Excelの活用方法について学ぶ |
Data Science 演習 | 身近なデータを用いて,統計的な手法を用いた探究活動を行う | |
Code Science 演習Ⅰ | イメージと結びつきやすいプログラミング演習を行う | |
2年 SSH国際情報(普通科) | 課題研究のための 統計学 | 多変量データを題材にした統計手法について学ぶ |
Computer Science 演習 | コンピュータの仕組みについて,体験的に学ぶ | |
Global Data Science探究 | オープンデータ(Kaggle)を統計的に処理し,自由な問題解決を行う | |
Code Science 演習Ⅱ | Pythonを用いて事象を一般化する方法を探究する | |
2年 SSH国際情報(理数科) | 課題研究のための 統計学 | 多変量データを題材にした統計手法について学ぶ |
Computer Science 演習 | コンピュータの仕組みについて,体験的に学ぶ | |
Academic Writing演習 | 学会発表レベルを目指した課題研究における成果物の作成を行う | |
Developer Coding演習 | Webアプリの開発を通して、エンジニアリングデザインを実践的に学ぶ | |
Code Science 演習Ⅱ | Pythonを用いて事象を一般化する方法を探究する |
①に関しては、文部科学省「GIGAスクール構想の実現標準仕様書(2020)」を参考に、検討を行った結果、インストールが不要なブラウザベースでのWebアプリケーションが望ましいと判断した。そのため、統計+Webアプリケーションという観点から、使用言語はPythonを選定し、Streamlitライブラリを用いて、開発を行った。Webアプリケーションとして公開することで、パソコン室でなくとも1人1台端末を活用したデータ分析が可能にな
り、物理的な環境制限を減らすことができると考えられる。②及び③に関しては、統計処理の阻害要因の一つである統計ソフトの操作性の複雑さを低減するために、高校生の持つICT操作スキルを考慮し、タッチ操作のみで動作可能なシンプルなUIを実装した(図1)。
具体的には、分析するデータのExcelファイルをアップロードするだけで分析が可能になるものとした。実際に、情報授業で統計を教える際に、Excelの操作を指導することになるが、生徒の操作レベルのばらつきは非常に大きく、複雑な処理になればなるほど、技能を指導する教員の負担が大きくなってしまう。しかし、本アプリケーションを使えば、ファイルをアップロードし、クリックやタップを行うだけで、簡単に可視化や検定を行うことができるため、技能指導や習得の時間を大幅に減らすことができ、人間にしかできない「考察」や「意思決定」に時間を割くことができる様になる。④については、統計初学者のつまずきを考慮し、有意水準の判定から解釈の補助を行う機能を実装した。これにより、検定処理の知識がない生徒や指導に不安を持つ教員でも、容易に分析や指導を行うことできると考えられる。さらに、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」で取り扱う統計的な分析及び探究活動で想定しうる手法である、箱ひげ図、散布図(行列含む)、相関分析、t検定、分散分析、回帰分析等を実装した。

参考:https://huggingface.co/spaces/itou-daiki/easy_stat_demo
このWebアプリケーションによって、時間的・空間的・環境的制約を受けないデータ駆動型探究を支援することができると考えられる。
次回は、機械学習等の発展的な技術を活用した探究について述べる。