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【インタビュー】「EduDX賞」受賞の大分県立大分舞鶴高等学校 Dit-Lab. 伊藤 大貴先生にお話を伺いました

「ラーニングイノベーショングランプリ2024」において株式会社イーラーニングが提供する特別賞「EduDX賞」を受賞された大分県立大分舞鶴高等学校 Dit-Lab. 伊藤 大貴先生にお話を伺いました。

伊藤 大貴 様
大分県立大分舞鶴高等学校 
情報科(探究科)教員(教諭)
  

予測不可能な未来に対応するために、最も必要なスキルは統計やデータサイエンス

伊藤先生:
Society 5.0についてはご存知かと思います。予測不可能な未来に対応するために、最も必要なスキルは統計やデータサイエンスだと私は考えています。これには直接的な予測能力だけでなく、データに基づいて自ら判断し行動する力も含まれます。

このような背景から、大学では数理・データサイエンス・AIの教育が求められています。しかし、高校ではまだ十分に導入されていません。これらのスキルはデジタル社会における「読み書きそろばん」とも言われており、高校段階から教育することが重要だと考えました。

本校はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、次期学習指導要領のモデルの一助となる知見を創造するために、先進的な取り組みを行うことができます。そこで、高校生向けのデータサイエンス教育カリキュラムを開発し、今回応募したWebアプリケーションを開発しました。

このアプリケーションを使用することで、生徒たちが自らデータを収集したデータをもとに、実統計的な分析を行い、根拠に基づいた問題解決の糸口を見つけることができます。これを私は「データ駆動型探究」と定義しています。

今後もこのアプリケーションを改善し、データ駆動型探究活動をさらに充実させていきたいと考えています。以上が開発の背景になります。

― 受賞のコメントで、学習指導要領の変遷に伴い、統計の重要性が増していく中、(1)教員の指導時間の不足(2)学びを転移させる環境の欠如、この2点について大きな問題意識を抱えています、と書いてくださいました。もう少し詳しくご説明いただけますか。

伊藤先生:
まず教員の指導時間の不足についてですが、データを使った演習を生徒に指導する際の課題があります。通常、エクセルから始めることが多いのですが、40人の生徒のエクセルスキルを向上させるのは非常に難しいです。

最近の中学校ではパソコン室が減少しています。そのためパソコンに触れたことのない生徒も高校に入学してきます。そのような状況で、限られた授業時間内にエクセルや統計を教えるのは大変です。また、教員間でもデータサイエンスのスキルに差があります。

そこで、データをアップロードし、クリックやタップをするだけで簡単に統計処理ができるWebアプリケーションを開発しました。これにより、指導時間の不足という課題に対応できると考えています。

次に学びを転移させる環境の欠如についてですが、データ駆動型探究が重視される中、実際の探究学習の場面では必ずしもパソコン室にいるわけではありません。学校外でデータを収集することもあります。また、学校の実情として、探究の時間が学年の中で同一時間帯に設定されていることが多く、全生徒がパソコン室を使用することは不可能です。

そこで、一人一台の学習用端末を活用し、生徒がどこにいても、家でも、学校でも、外出先でも様々なデータをもとに統計処理が行えるようにしました。
つまり、パソコン室だけで完結する学びではなく、どこでも学習を継続・転移できる環境を整えることで、この課題に対応できると考えています。

デジタル化やICTが教育に果たす役割

伊藤先生:
概略的になりますが、デジタルを活用することで、生徒の個別最適化や学びの幅、可能性を大きく広げられると考えています。

現状、日本ではデジタルの活用がコンテンツ消費に偏っています。しかし、実社会や日常生活で活用できるコンテンツへと移行していけば、デジタルの良さがより生きてくると思います。また、地域格差の解消にもつながるでしょう。

学習指導要領の改訂に伴い、特に「情報」という科目が大きく変更されました。教員間のスキルの差も課題とされています。人口減少や少子高齢化も相まって、学校や社会全体で効果的・効率的なICTの活用がもとめられているため、他の教科でもデジタルを十分に活用していく必要があると考えています。

デジタル活用により、学びが効果的になるだけでなく、効率的にもなります。効率化できるところは効率的に行い、本当に丁寧に学んでほしいところや考えてほしいところに時間をかけるというのが、デジタルの本質的な役割だと思います。

伊藤先生:
まず、統計分析用のWebアプリケーションについてですが、エクセルや統計の基礎を学んだ後、「easyStart」を授業に取り入れています。生徒の学習時間、家庭学習時間、部活動参加状況など、本校の生徒から多変量のデータを収集し、このアプリケーションを使って分析します。生徒たちは自分たちで知見を見出すことができます。例えば、運動部と文化部における成績の差異がないことや、学習開始時間の重要性などを発見しています。

2年次では、探究活動や課題研究にこのスキルを活かします。生徒たちが自らアンケートを取るなどしてデータセットを作成し、このアプリケーションで分析を行います。

もう一つの機械学習用アプリケーションは、現在のところ理数科の課題研究で使用しています。昨年度の理数科情報班では、ストレスとバイタルデータ(心拍数、運動時間、消費カロリー、睡眠時間など)の関係を機械学習を用いて分析し、予測モデルを立てる研究を行いました。

生徒たちは因子分析でストレスの構造を明らかにし、スマートウォッチなどでデータを収集しました。サンプル数の少なさという課題に直面した際には、オーバーサンプリングなどの手法を学びながら研究を進めました。この研究は情報処理学会の情報学研究コンテストの全国大会に出場することができました。

このように、本校では授業で学んだ後、探究活動に生かすというこだわりを持ってカリキュラムの流れを作っています。

伊藤先生:
以前は操作面でのストレスが大きく、統計分析を避ける生徒もいましたが、このアプリケーションのリリース後は、直感的に操作できると好評です。ボタンを押すだけで統計結果や表が出るだけでなく、アノテーションも表示されます。

また、p値が.05より低いから有意差があるといった解釈の補助も付けています。これにより、私がいなくても、または他の先生方が何かの調査をした際にも活用できるようになりました。

操作が簡単なため、高速で何度も分析を繰り返せるのが大きな利点です。分析を繰り返すだけでなく、他者の分析結果を見る中でサンプル数の妥当性やデータのばらつき、有意性などについて考えることで、批判的な視点、統計リテラシーが身についてきたと感じています。生徒たちからは、何度も試すことで理解が深まったという感想も聞かれ、非常に嬉しく思っています。

伊藤先生:
おっしゃる通りです。実は、私はこのアプリケーションが大学の初年次教育にも使えると考えています。中学校のカリキュラムには詳しくないのですが、中学校でもグラフを作成して終わりというケースが多いようです。

日本はこの分野で遅れていますので、小学校は難しいかもしれませんが、中学校から大学の初年次教育まで幅広く活用できれば、より多くの世代で情報リテラシーや統計リテラシーが向上し、社会全体が良くなるのではないかと思います。
提示された情報に対して少しでも疑問を持つ姿勢が育てば、それは一つの成功といえるのではないかと考えています。

教育は未来を育てる仕事

伊藤先生:
将来的な展望はたくさんあります。個人的には、私が作ったWebアプリケーションや私自身が、私が育てた生徒の誰かが世界や日本を変える足掛かりになれればと思っています。基本的に、教育は未来を育てる仕事だと考えています。

機能面では、さらに充実させる必要があります。また、現在のシステムは大規模なアクセスに耐えられる環境ではないので、サーバーの問題なども解決していく必要があります。

伊藤先生:
はい、オープンソースで進めています。私自身は文系で技術的な部分に詳しくないので、より多くの知識を持った人々が一緒に開発してくれれば、このWebアプリケーションがさらに良くなっていくと思います。

ー 一人の力には限りがありますが、多くの人が力を合わせることができるのがオープンソースの素晴らしいところですね。そのような取り組みをされているのを知り、感銘を受けました。その後の反響はいかがでしたか?

伊藤先生:
実はあまり良くないというか、反応がないです。といのもまだ統計についてよく知られていないのです。ただ、学会で発表した時には「すごいですね」とか「ぜひ使わせてください」といった反応がありました。これをきっかけに様々な執筆の話をいただいたりもしています。今後はそもそも統計を知らない人にどうやってこれを届けようかというのが大きな課題だと感じています。

ー 今回の賞の名前にもなっている「EduDX」とは、当社が提唱する「Education」と「Digital Transformation」を組み合わせた造語です。2023年9月に「EduDX lab.Asia」という研究所を設立し、教育のデジタル化に関する有益な情報を、日本語と英語で発信しています。もし可能であれば、教育現場でのご経験に基づくお考えや実践されていること、オープンソースプロジェクトなどの取り組みについて書いていただき、少しずつでも先生の活動の輪を広げられたらと考えておりますがいかがでしょうか。

伊藤先生:
ぜひともお受けしたいです。英語の記事になることで、もっと多くの国々、特に発展途上国などにも発信できるというのも夢があります。

世界で何が起きているのか、AIをどのように活用するのかを子供たちに示していくべき

伊藤先生:
否定的な意見を持つ人も多いですね。弊害として、例えば読書感想文やレポートをAIに生成させるといったことが実際に起きているようです。この脅威に対する意識自体を変える必要があると思います。

2024年版の情報通信白書でも、日本のAI使用率が非常に低いことが示されています。私自身は仕事の補助や考えをまとめるために頻繁に活用しています。思考を加速させたり、情報をまとめたりするのに非常に役立ちます。こういったツールをどんどん使っていかないと、日本がさらに遅れてしまうと危惧しています。

特に教育現場から変わっていく必要があります。未来で働くのは私たちではなく子供たちです。世界で何が起きているのか、AIをどのように活用するのかを子供たちに示していくべきだと考えています。
生成AI以外にも、機械学習の基礎を理解することは重要です。AIの仕組みがブラックボックス化していると、AIの判断に対する責任を自分で取れなくなる恐れがあります。最低限のAIの仕組み、統計や確率の基礎を知ってほしいと思います。

例えば、運転免許を取得する際、自動車整備士になるわけではありませんが、最低限のエンジンの仕組みは学びますよね。AIも同じだと思います。

私が開発したWebアプリケーションについて、統計的なロジックの細かいところの理解には不十分だという意見もありますが、学習指導要領では手法を使って様々なことを実践することが重要であると示されています。

私の目的は、詳細な仕組みを理解させることではなく、統計やAIを簡単に使えるようにすることで、様々な可能性を見せることです。これが統計やAIの理解につながり、子供たちや社会全体のリテラシーが向上すればと考えています。

伊藤先生:
はい、かなり自由に取り組ませていただいています。ただ、共通テストの科目にも含まれているので、その責任も負わなければなりません。現在の日本の子供たちにとって最も必要なのは統計とプログラミングだと考えているので、本校ではそれに沿ったカリキュラムを作成しています。

テストの問題を解くための勉強ではなく、実践的な学びが必要

伊藤先生:
皆さんに伝えたいことは、教育現場でデータやAIをしっかりと活用していかないと日本は変わらないということです。現在、情報が共通テストに含まれていますが、共通テストを目的とするのではなく、学んだことを実際に使うこと、技術を使って何かを生み出すことを重視すべきだと考えています。生徒が学んだことを他の分野に応用できるような、自立した学びを促進していくべきです。

テストの問題を解くための勉強ではなく、実践的な学びが必要です。幅広い視点から生徒にとって本当に必要な学びは何かを考え直し、何らかの変革を起こしていければと思っています。

情けに報いると書いて「情報」です。今回の受賞を受けて、様々な思いに応える事ができるような、今までにない授業や教材を開発していこうと強く思いました。

今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします。

―お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

<ラーニングイノベーショングランプリ2024担当者より>
ご応募いただいた研究も素晴らしかったですが、詳しくお話を伺って、伊藤先生の教育理念や実行力に感銘を受けました。特に「未来で働くのは私たちではなく子供たち」というお言葉が印象的でした。

伊藤先生は教育のデジタル化を通じて、教育プロセス、環境、体験を刷新し、教育の質向上と平等な教育機会の実現を目指す当社の取り組みである「EduDX」を、教育現場で実践されている素晴らしい教育者でした。

今後ますますのご活躍をお祈りしております。

「ラーニングイノベーショングランプリ2024」の詳細はこちら
https://www.e-learning.co.jp/news-topics/nt20240401_1/

受賞者発表記事はこちら
https://www.e-learning.co.jp/news-topics/nt20240717_1/

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